SHALIMAR / シャリマー【香水レビュー】

1925年の発売以来愛され続けるオリエンタルフレグランスの王道、ゲランの「シャリマー」の香りを紹介します。本記事でレビューするのはパルファン。現行品の他、ヴィンテージパルファンも愛用しています。
サンスクリッド語で「愛の殿堂」と名付けられた壮麗たる名香は一体どんな香りなのか、本記事で紐解いていきたいと思います。

私的偏愛度:☆☆☆☆☆
私的オススメ度:☆☆☆☆☆
 
こちらは1960年代のものと思わしき
ヴィンテージ


はじめて「シャリマー」を香ったときの驚きは忘れられません。
「オリエンタル」香水の元祖と聞き、序盤からどっしりと甘い香りを想像していました。ところが鼻に飛び込んできたのは、実に処方の30%を占めているという深く鋭利なベルガモットの香り
質のいいベルガモットの精油は、それ単体で少しずつ表情を変えながら1~2時間以上をも素晴らしい香りを放ち続けるということを知りました。
そして、肌から豊かな酸味が消えるころあたたかく立ち上ってくるまったりとクリーミーなバニラの甘美さ。
そのドラマティックな展開に感動し、香水とはかくも美しく香りが移ろっていくものなのか、と改めて感動しました。

というのも、わたしが物心ついたときには既に、一般に「リニア香水」と呼ばれる香りの変化が乏しい香水がたくさん世に出ていたのです。これは、トップノートがいわゆる香水に対する「第一印象」を決める重要な役割を果たしており、香りがすぐに変わってしまうとお客さんが購入を決断しづらくなるというビジネス上の背景、そして「リニア香水」を作るのに欠かせない合成香料の方が天然香料よりも格段に安価であるという事実がうまく噛み合った結果と思います。

「リニア香水」の中にも好きなものは山ほどあり、どちらが優れているといった類の話ではありません。ただ、はじめてじっくりと味わったクラシック香水「シャリマー」は、確かにそれまで経験してきた香水とは一味も二味も異なる存在として、深く心に刻み込まれました。


ムガール帝国の皇帝シャー・ジャハーンが愛妃ムンターズ・マハルのために建設した庭園、「シャリマー」。当時金よりも高価であった水晶がふんだんに用いられた美しい庭で、二人はしばし互いの愛を確かめ合ったといいます。
マハルは皇帝念願の世継ぎを出産した直後に亡くなり、悲しみに暮れたジャハーンは13年の歳月をかけて彼女のための霊廟を建設しました。かの有名なタージマハルです。

調香師のジャック・ゲランはこの物語に多いにインスパイアされ、悠久の愛情を香りに込めてボトルに詰め込みました。レイモンド・ゲランがデザインを手掛けた有名なボトルは、庭園にあった噴水を模したものといいます。

今でもこのボトルが受け継がれているのは
とても喜ばしい
シャリマーの香りの構成と特徴


深くくっきりとしたベルガモットの香りから始まり、華やかなフローラルノートを経てクリーミーでコクのあるバニラが肌の上でとろけていきます。

香りの構成は以下の通り (Fregrantica の情報を参考にさせていただいています)。

 トップ:ベルガモット、フローラルノート、
オゾニックノート
ミドル:アイリス、ローズ、ジャスミン
ベース:バニラ、トンカビーン


上に載せさせて頂いたfregranticaの情報と、自分の鼻で感じる香りの構成がやや異なります。下記、自身が感じる香りの変化を書いてみます。

肌、そしてムエットの上でハッキリくっきりと香るのは深いベルガモット
上で触れた通り、シャリマーの処方の実に30%を占める香料です。長年ゲランに勤めていたロジャ・ダヴ氏も「ベルガモットが入っていなければ、シャリマーではない」と述べています。
ヴィンテージと現行版で最も大きな違いを感じるのがこのトップノート。
前者のベルガモットは輪郭線が明瞭で凛とした香り立ち、かつ奥深い深みを滲ませて香るのに対し、現行版はベルガモットよりもマンダリンオレンジの甘みが主張します。ベルガモットの輪郭は朧に溶かされ、とても控えめ。旧シャリマーよりも柔らかく優しい印象です。
個人的には深く鋭利なベルガモットから濃厚なバニラへの移ろいこそがシャリマーの醍醐味と感じていますので、現行版のトップノートにはやや物足りなさを感じます。とはいえこれは好みの問題ですし、現行版の香りも素晴らしいものであることには変わりありません。

シトラスの酸味を従えたまま、花々が名の通り華を添えるミドルノート。
とはいえシャリマーがシャリマーたる所以はトップノートとベースノートにあり、中盤は足早に駆け抜けていくようです。
明るく優しいローズがベルガモットと、そしてほの暗く濡れたジャスミンがベースのバニラと結びつき、香りを繋ぎとめてひとつにまとめています。

ベースで深くとろけるように香るのはバニラ。ミルキーでなめらかな質感が特徴のエチルバニリンが豊富に用いられています。バニラアイスクリームの香料としてよく用いられる動物性の天然香料「カストリウム」が用いられているのも特徴。肌の上だとはっきりと感じ取るのは難しいですが、1日半以上経過したムエット上であたたかくコク深い香りを放っていました。
現行版は、ヴィンテージ版と比べてこのカストリウムの含量が抑えられているようです。代わりにトンカビーンとムスクがふっくらと優しく香ります。
ヴィンテージのバニラが深く重くクリーミーな質感であるのに対し、現行版はふんわりと愛らしい表情が強調されているようですね。
さらに、オポポナックスの濃くて甘い樹脂香が長く香りを肌にとどめ、まさに「オリエンタル」の風情を加えています。

「愛の殿堂」という名前、そしてあたたかくなめらかなベースノートの印象から、しばしば「官能的」とも称されるシャリマー。
その表現に納得しつつ、恋愛感情の発露を超えて、家族愛や郷土愛すら感じさせてくれる香りにも感じます。
どこまでも深く甘く、キラキラと明るく、けれど底知れない闇もある。一言では片づけられない渋みや苦みもあり、それらすべてがなめらかに練り上げられた香り、シャリマー。もしも人の心を満たす香りを映し出すことができるのであれば、本物の愛を知っている人の心にはきっとこんな香りが静かに横たわっているのだろうと思います。

シャリマーの調香師は三代目ジャック・ゲラン氏。フランソワ・コティ、エルネスト・ダルトロフと共に香水の世界を切り拓いた天才調香師です。
以前レビューをした「ミツコ」と「ルールブルー」も同様にジャック・ゲラン氏の調香でした。

MITSOUKO / ミツコ パルファム【香水レビュー】

2019-09-29

L’HEURE BLEUE / ルールブルー【香水レビュー】

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シャリマーが似合う季節と場所


後半バニラのクリーミーな甘さがしっかりと香りますから、基本的には秋冬にオススメしたい香水です。わたしの場合はトップのベルガモットが非常に長く肌に残り、かつバニラの甘さがそこまで主張しないため春夏に用いることもしばしば。

凡庸な書き方にはなりますが、大切な人や場所、思い出と向かい合って慈しむ際にはこの香りを纏いたくなります。
実用的なことを述べるのであれば、オフィシャルなシーンよりプライベートな空間で本領を発揮する香りであると思います。

シャリマーの香りの持続時間


パルファンですので優しい香りが長く長く続きます。
わたしの肌の上では7時間以上、ムエットは丸二日以上香りを放ち続けています。

肘の内側や手首の内側にほんの1、2滴つけて、その香りを楽しんでいます。

こんな人にオススメ
 
・オリエンタル香水の元祖であり殿堂の香りを愉しみたい方
・香りの変化を存分に楽しめる香水がお好きな方


ゲランのクラシックフレグランスの中でも、ひと際ファンが多いのが「シャリマー」ではないでしょうか。たくさんの人の心を惹きつける「愛」を具現化した香水。きっとこれからももっともっと、多くの人の心を掴むことと思います。

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