MIYAKO / 都【香水レビュー】

2015年、マレーシアのニッチフレグランスメゾン「AUPHORIE (オーフォリー)」から発売された香水、「MIYAKO」を紹介致します。
昨秋発売された世界香水ガイドⅢにて堂々の☆5評価を獲得し、辛口で知られるルカ・トゥリンが1ページ半にも及ぶ熱量に満ちた絶賛のコメントを残していたのが記憶に新しいですね。わたし自身は2018年頃、原書の香水ガイドにてその存在を知り、ボトルを買い求めたのが出会いでした。

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原書房
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☆☆☆☆☆ 柚子 オスマンサス
(前略) 「ミヤコ」の主な香りは極上のオスマンサス。この香料に私が初めて恋したのは、資生堂の「ノンブルノワール」(1982年) に出会ったとき。アプリコットからレザーまで、オスマンサスは幅広い香りの特徴を備える。スイセンと同じで、それだけでほぼ香水ができる。ただし、おそらく信じられないだろうが、調香ではあまり役に立たない。というのも、どの部分がそっくり残っていて何が加わったかは心で理解できるといわんばかりに、混ぜ合わされた他のノートがメッセージをあいまいにしがちなためだ。「ミヤコ」が素晴らしいのは、オスマンサスを初めから終わりまで広げられること。偉大なソーテルヌワインのように、これは途方もない重みと甘みと、トップの激しい酸味のバランスが取れており、香料リストにある柚子を思わせる。(中略) これは今まで私が嗅いだ中でもとりわけ胸を打つアコードで、言葉や音楽がなくとも、冥府へ下るオルフェウスのイメージが伝わってくる。独学の調香師がこの香水界のトリスタンのコードを見つけただけでなく、残りの楽譜を書くことができたという事実には、ひたすらに驚かされる。魅力あふれるが悲しいほど儚い、他の多くの職人の香水とは違い、これは香りが堂々と続き、まず燃えるように輝く総奏に広がり、森の中のメゾフォルテで終わる。私にとって不変のお気に入りはこれまでただひとつ、1919年にジャック・ゲランが手がけた香りしかなかった (※) 。これは二つ目だ。※ミツコのこと
私的偏愛度:☆☆☆☆☆
私的オススメ度:☆☆☆★★
 
オーフォリーはEugene AuとEmrys Auによって2015年に創立されたマレーシアのラグジュアリーフレグランスブランド。
彼らの苗字である「Au」に幸福感を意味するフランス語「Euphoria」を掛け合わせた造語がブランドのタイトルにあてられています。詳しくは、稲葉先生が書かれている香水サイト、proficeの記事が非常に参考になりますので興味のある方はぜひご覧ください。
さて、ルカ・トゥリンにさしもの絶賛しわしめるその香りとは一体いかに、と思いブラインドで本国から取り寄せたわけですが、正直に申し上げるとはじめて嗅いだ際には想像との大きなギャップに驚きました。「洗練された渋さ」、すなわち日本の侘び寂びにも通ずるテーマを掲げて創られた京の都の香り、そしてルカ・トゥリンの「柚子 オスマンサス」という総括に、澄んだ静かなフルーティーフローラル調の香りを思い描いていたのでした。
実際の「ミヤコ」はもっともっと濃密なのです。ワンプッシュで部屋いっぱいにその香りを満たし、空間を埋め尽くす勢いがあります。
冒頭の酸味の効いた柚子ですら、何か油膜に包まれたようにもったりと重い質感をしているのです。そして、直後押し寄せるアプリコットとピーチ、そしてミルキーなオスマンサスのねっとりとした甘さの下から緑色の渋みを帯びたキレのよいレザーがじわじわと滲み香ります。「軽やか」や「フレッシュ」という言葉とは対極に位置する香りです。かねがねラクトンが好きだと公言しているルカ・トゥリン氏ですから、言われてみれば確かにこれは彼の好みであろうと思えてくるわけです。
日本人の思い浮かべる「和」の香りではけっしてないし、生花の金木犀の香りもしないと少々がっかりしたのがわたしの第一印象でした。
ところが、その印象が大きく変わったのは購入してから半年以上経った秋の夜のことです。
ムエットに吹きかけて「ミヤコ」の香りを改めて試していたところ、隣室にいた家族が「金木犀の香りがする!」とわたしの部屋にやってきたのです。
確かにときは金木犀の開花の季節、家の近所にも木が植わっていますが、窓から香りが入り込んでくるほどの距離ではありません。彼女が嗅ぎ取ったのはまさに空間に満ちた「ミヤコ」の香りだったのでした。
それまで近距離でムエットや肌から放たれる香りを嗅ぎ取ることに集中していたわたしは、そこではじめて空間に満ちた柔らかい黄金色の香りに気が付き、ハッと驚いたのを覚えています。けっして日本人受けのよい香りとは言い難いことから☆は3つとしましたが、使えば使うほどに新しい表情を見せてくれる魅力的な香水です。長く付き合ううちに、わたしにとって手放せない香りのひとつとなりました。
 
ミヤコの香りの構成と特徴


こってりとして華やかなフルーティーフローラル調の香りが空間へ広がります。

公式から紹介されている香りの構成を記載しています。

 アプリコット、ユズ、ピーチ、オスマンサス、
ジャスミングリーンティー、レザー、ヒノキ、
シダー、サンダルウッド、パチョリ、
カツラリーフ、シルケンムスク
 

すっきりと酸味の効いた柚子の香りに始まる「ミヤコ」。
けれど、上で述べたようにフレッシュで軽やかなそれではなく、しっとりとした油膜に包まれたかのような質感なのが不思議です。続いてクリーミーですらあるピーチとオスマンサス、そして豊潤なアプリコットが甘やかに香り立ち、視界がきらきらと輝く黄金色に染まるよう。また、肌に鼻を寄せると緑茶を思わせるグリーン調の渋みと切れ味のよい滑らかなレザーノートが香りに深みを与えていることに気が付きます。このミルキーなフルーティーノートとシャープなグリーンノートとのコントラストが美しく、ルカ・トゥリンが「ミツコ」を引き合いに出した理由がなんとはなしにわかる気がします。驚くのは、時間が経過するごとにオスマンサスがより壮大かつ華やかなスケールで匂い立つ点。どんどんとフルーティーな芳香を増していき、肌の上で生き生きと香る様に魅了されます。馴染みのある生花のそれとはやはり趣が異なり、幾分しっとりとしたラクトンの重さを従えてはいるものの、非常に美しい香りであることに変わりはありません。柚子の酸味とミルキーなラクトン、そして緑茶の渋みが合わさった香りはおいしそうですらあり、桃の風味のミルクババロア、もしくはコクのある濃厚な乳酸菌飲料を連想させます。
ちなみに自身の肌の上ではこのクリーミーなフルーティーノートが序盤からしっかりと長く香りますが、ムエット上ではトップのすっきりとした柚子から始まる香りの変遷をよりじっくりと味わうことができました。これまで様々な香水を試してきて、わたしの肌はラクトンを立たせやすいということがわかっていましたが、この香水においてもそれは同様のようです。
寒い季節にはレザーやパチュリ、光沢のある深いグリーンノートやすっきりとしたウッディ調の香りが凛とした表情を与えているのが明確にわかりますが、今の季節だとわたしの肌の上では主張は控えめ。あくまでもなめらかなミドルノートを主役に、香りに奥行きを加える役割を果たしているようです。表面がつるりとしたレザーの香りが強いと車酔いのときの気分が蘇ってしまうようであまり得意ではなく、わたし個人は今の時期の香り立ちの方が好きです。
はじめから終わりまで、なめらかでとろりとした肌触りの金や橙のシルクが豊かな調べを運ぶ香水。
日本の「詫び寂び」を語るには豪奢で華やかすぎるようにも感じるのですが、人の心を打つ美しい香りであること一分の疑いの隙もありません。
「ミヤコ」の調香師は、ユージーン・ウー氏。上で触れたブランド創立者のひとりで、独学で調香を学んだ調香師でもあります。パートナーと共に「ミヤコ」の調香を担っています。

ミヤコがにあう季節と場所


トップからミドルにかけてしっかりと甘さが出るため、春もしくは秋に纏うのが好きです。
冬だとベースのレザーが非常に強く主張しがちで、難度の高い香りに感じてしまいます。香り立ちが強いため、肌にのせるのが憚られるときにはムエットにふきつけたものを部屋の隅に置いてルームフレグランス代わりに用いることもしばしばです。部屋中が美しい黄金色で満たされます。

ミヤコの香りの持続時間


愛用しているのは「エキストレドゥパルファン」です。いわゆるオードパルファンよりはるかに賦香率が高く、持ちもいいためパルファン並みの商品ととらえてよいかと思います。ワンプッシュで8時間以上は優に香りますし、ムエットに吹き付けておくと二日経過したのちもしっかりと空間に香りを放ち続けています。少量を適切な部位にのせて香りを愉しむように心がけています。手持ちは30mlのボトルで、かれこれ1年半~2年ほどは愛用していますがなかなか減りません。コストパフォーマンスに優れた香水であると言えるでしょう。
ちなみにこの香水、つけ方によって香り方がまったくといっていいほど変わります。つけ方を誤ると、べったりと甘いシロップ様の香りがキンキンと鳴り響いてしまうこともあります。肌から十分な距離を取り、ふんわりと載せたときの香り立ちの美しさには舌を巻かざるを得ません。

こんな人にオススメ
 
・濃密なフルーティーフローラル調の香りをお探しの方
・クリーミーでまろやかなフルーティー調の香りがお好きな方

ここ最近はヨーロッパ・中東のみならずアジア圏発のフレグランスメゾンが増えており、香水界の多様化を実感しています。また、最近では外国人調香師が日本をテーマに作出した香りというのを多く見かけるようになりました。外から見た日本の新しい側面を知れるようで、とても興味深く感じています。第一印象はあまりいいものではなかった「ミヤコ」ですが、2年弱付き合ってきて今では手放せない素晴らしい香りであると感じるに至りました。先入観にとらわれず、様々な角度から香りを観て、そして楽しむことの重要性をわたしに教えてくれた香水です。