L’HEURE BLEUE / ルールブルー【香水レビュー】

1912年の発売以来愛され続けているゲランの名香、「ルールブルー」の香りを紹介します。本記事でレビューするのはパルファン。オードパルファンを愛用していたこともあったのですが、かなり昔のことで現在は手元にないためレビューは控えます。
発売から100年以上経つクラシックな名香が、今でも発売され続けていることは非常に喜ばしいことですね。

私的偏愛度:☆☆☆☆☆
私的オススメ度:☆☆☆☆☆


曖昧であるがゆえの美しさ」は、例えば印象派絵画や短歌から感じ取ることができます。はっきり、そしてくっきりと正しい輪郭線を描くことだけが「美」ではない。本質を説明しきらずに想像の余地を残すことで浮き彫りになる美しさもある。そんなことを、わたしは印象派画家や歌人から大いに学びました。
そして、「曖昧ゆえの美」を香りで教えてくれたのが「ルール・ブルー」です。青の刻 (とき) と名付けられた、夜と朝の狭間で揺らめく空気をボトルに閉じ込めた美しい香水。
ひんやりとした冷たさがありながらふっくらとしたあたたかみも備え、静謐でただただ静かな香りに思えながらしっとりとした官能性を感じることもある。
一言では断じることのできない曖昧な存在感に心掴まれました。
この繊細でロマンティックな香りが自分に似合うかと問われたら自信がありませんが、この香水の懐の深さに何度も救われ、愛し続けてきたことは確かです。

何事も白黒ハッキリと線引きできればよいですが、人生そうもいきません。
あえて曖昧なままで漂わせておく方が美しいことも、ときにはあります。
何が正解かもわからないまま、見つからない答えを延々探し続けて心が疲れてしまったとき、輪郭の朧げなこの香りの「明確な答えがなくても美しいさま」に感じ入り、心癒され、曖昧なままでも何となく思うまま進んでみよう、という気持ちになれます。
「香水」という形で売り出されている以上、ジャック・ゲランの中で明確な答えがあって創り出された香りに他ならないと思うのですが、それでも上記のような気持ちを感じさせてくれる。そんな器の大きいところがこの香水の名香たる所以ではないでしょうか。

ややキツイ印象があったオレンジブロッサムアブソリュートがここまでやわらかく優しく香ることに驚き、天才調香師ジャック・ゲランの妙なる技巧に感動したという点で、調香の観点からも思い入れの深い香水のひとつ。

誰もが名前を知っている世界的な名香ですからわたしが勧めるなんておこがましいですが、まだ試していないよという方のために、一度試しても損はないですよということだけひっそりとお伝えできたらと思います。


調香師のジャック・ゲランが夜、セーヌ川畔を散歩していたとき、日暮れと夜明けの狭間の美しさに魅了され、その静けさを香りで表現しようとして生まれたのがこの「ルール・ブルー」。
彼はこの香りを妻のリリーに捧げ、リリーは常にこの香りを纏ったといいます。
ロマンティックな物語が詰まった美しい香りであることが、このエピソードからも伝わることと思います。

ルールブルーの香りの構成と特徴


スーッと涼しいアニスとひっそりとしたベルガモットが鼻を掠めたのち、オレンジブロッサムとクローブ、そしてそれらの輪郭を優しく朧に溶かすバニラとイリスがふんわり香ります。

香りの構成は以下の通り (Fregrantica の情報を参考にさせていただいています)。

 トップ: アニス、ベルガモット
ミドル:オレンジブロッサム、クローブ
ベース:バニラ、アイリス、スミレ、
ベンゾイン、トンカビーン


フランスを旅した際、かわいらしい手のひらサイズの缶に入ったアニスキャンディをお土産に購入しました。白くて丸くて小さいタブレットを口に入れてゆっくり溶かすと、スーッとした清涼感と共にほの甘さがいっぱいに広がり、最後に宝物のような小さな種が残ります。
「ルールブルー」のトップで香るのも、まさにこのアニス。視覚的に例えるならば「水色の風」の香り。涼しいハーバリックな清涼感と共に鼻を抜けていくか細い仄かな甘さが印象的です。
そしてそこに、とても遠慮がちなベルガモットがそっと深みを添えています。
素朴かつ洗練されたトップノート。

そんな繊細なトップが過ぎ去ったのち、「ルールブルー」の主格として香るのはオレンジブロッサム。

オレンジブロッサムの香りとは
オレンジの花を水蒸気蒸留して採取する精油は「ネロリ」、溶剤抽出して採取するアブソリュートは「オレンジフラワー (ブロッサム) 」と呼ばれ区別されます。実際に香りも大きく異なります。
オレンジブロッサムを単体で嗅ぐと、濃厚な蜜を思わせる甘さとレモンの皮に似た爽やかさの中にやや鼻を突くツンとしたえぐみがあり、また仄かにアニマリックなコクを感じます。ジャスミンのアブソリュートと印象は似ていますが、ジャスミンよりもアニマリックさは格段に控えめで、爽やかさが勝ります。

そして、オレンジブロッサムのツンとしたエッジをあたたかく抑えているのが、クローブです。クローブの深い紫色と茶色の中間色を思わせる香ばしいスパイス香がオレンジブロッサムと美しく嚙み合い、優しい奥行きを生んでいます。
このあたたかく深い香りを優しいバニラとふんわりしっとりとしたパウダリーノートがくるみこみ、薄青い霞んだ空気を作り出しているようです。
オレンジブロッサムの濃厚な甘み、クローブの塩気すら感じる香ばしさ、そしてバニラのミルキーなコク。これらのハーモニーが「プラリネ」のごとくおいしそうな空気を生んでいる、とルカ・トゥリンは解説していました。
確かに、ナッティーな滑らかさを感じますね。この香りが肌に溶けていくまで7~8時間優しく長く続きます。

涼やかなトップノートから霞がかった肌馴染みのよい優しいラストノートまで、断定的な説明を拒むつかみどころのない曖昧な美しさ。
まさに、朝と夜の狭間で揺れる「青の刻」の香りです。

ルールブルーの調香師は三代目ジャック・ゲラン氏。フランソワ・コティ、エルネスト・ダルトロフと共に香水の世界を切り拓いた天才調香師です。
以前レビューをした「ミツコ」も同様にジャック・ゲラン氏の調香でした。

MITSOUKO / ミツコ パルファム【香水レビュー】

2019-09-29
ルールブルーが似合う季節と場所


冷たい空気の中でひときわ映える香りだと思いますが、あえて湿度の高い季節にしっとりと纏うのも素敵です。

わたしにとっては上で述べたように、少し疲れたな、というときに引き寄せられるようにこの香りを纏うことが多いです。
名声を100年以上積み重ねてきた圧倒的な名香でありながら、どんなときでも優しく受け入れてくれる懐の深い香り。この香りに拒まれた!と感じたことはまだ一度もありません。纏う人の置かれた状況や気持ちに寄り添い、しかるべく香ってくれる優しい香水です。

ルールブルーの香りの持続時間


パルファンですので優しい香りが長く長く続きます。
わたしの肌の上では7時間以上優に香っていました。

肘の内側や手首の内側にほんの1、2滴つけて、その香りを楽しんでいます。

こんな人にオススメ

 

・しっとりと曖昧な優しい青の香りを探している方
・秋冬に映えるパウダリックで肌馴染みのいい香りが好きな方


この香りを楽しむことのできる時代に生まれ、幸運でした。
泣きたくなるほど優しいジャック・ゲランの稀代の名香、これからも大切に使い続けていきたいです。

created by Rinker
ゲラン
¥9,999 (2020/02/19 13:35:10時点 Amazon調べ-詳細)