fracas / フラカ【香水レビュー】

スイス生まれのクチュールメゾン、 ロベールピゲ から1948年に発売された名香「フラカ」の香りを紹介します。
フラカをはじめとするピゲのフレグランスは一度は廃盤となりましたが、親会社のファッション・フレグランス・アンド・コスメティック社が調香師オーレリアン・ギシャールを起用し、1998年見事復刻を果たしました。
わたしが持っているのは復刻版のオードパルファムです。
オリジナルのパルファムをぜひ試してみたいのですが、なかなか見かけませんね。根気強く探し続けて、いつか出会えたらレビューを追記したいと思います。
日本でも2006年以降新宿伊勢丹にて取り扱いがありましたが、前年ながら現在は撤退しています。

わたしが最も好きなチュベローズフレグランスです。

私的偏愛度:☆☆☆☆☆
私的オススメ度:☆☆☆☆☆
 


例えるなら、ほんのり黄味がかったピンク色のバタークリームの香り
果汁したたる桃の甘酸っぱいフルーティーに、濃厚でミルキーなホワイトフローラル。
チュベローズやジャスミンをはじめとするホワイトフローラルは自分の肌ではうまく香ってくれないことが多く、鬼門だと思っていましたが、このむせ返るほど圧倒的な魅力にはひれ伏さざるを得ませんでした。「合う」とか「合わない」なんて関係ない、ただこの素晴らしい香りに身を委ねていたい…。そんな風に思わせてくれる香りは稀有ではないでしょうか。
あまりに堂々と女っぽいので憧れすら感じます。古臭いわ、と自分の中で捨てたつもりでいた「控えめで奥ゆかしいほど女っぽい」という観念を捨てきれていないことに無意識のうちに気付かされ、恥ずかしくなってくる。自分にフラカの爪の垢を煎じて飲ませたい。
肌の上で豪奢に香りを振りまいていたフラカが、終盤自分の血肉と一体化したかのようにあたたかく匂いたつとき、つけている本人のわたしですらドキッとします。何かを纏っているという感覚がそこにはなく、まるで自分の肌そのものがやわらかく甘い芳香を発しているかのよう。この現象を「香水が肌に馴染む」と呼ぶのなら、フラカ以上に肌に馴染んでくれる香水をわたしは他に知りません。
きっとどんなに入手が困難になっても、探してリピートし続けるだろう香水。
今も昔も、そしてきっとこれからも、一番好きなチュベローズ香水です。

シャネルの「No.5」を愛用していたことで有名なマリリン・モンロー。
実は、フラカも愛用していたことを明かしています。堂々とした、肉感的なフェミニティ。マリリン・モンローのイメージにピッタリだなぁと納得です。他にも、ブリジット・バルドーやマドンナも愛用していたことで有名ですね。
まさに「女性性」を体現したような素晴らしく美しい女性たちの愛用香水であったと知ると、自分なんかが使ってもいいのだろうか…と怖気づけてしまいます。
けれど、1プッシュスプレーしてみたらきっとその迷いは吹き飛ぶはずです。似合う・似合わないは関係なく、ただこの香りに酔いしれることができるのは、誰にとっても素晴らしい幸福であるのだと。
わたしが紹介するまでもない名香であることは重々承知しつつ、ホワイトフローラルがお好きな方にはぜひオススメしたい、と書いておきます。

簡素な黒いボトルにつまった
「華やか」を具現化した香り
フラカの香りの構成と特徴


ジューシーなピーチの果汁がしたたるように肌を濡らしたあと、バター様のコクのあるホワイトフローラルブーケが華やかに匂い立ちます。

香りの構成は以下の通り (Fregrantica の情報を参考にさせていただいています)。

 トップ: オレンジブロッサム、マンダリン、グリーンリーフ、
ピーチ、ヒヤシンス、ベルガモット
ミドル:チュベローズ、ガーデニア、ジャスミン、
オスマンサス、コリアンダー、カーネーション、
オリスルート、スズラン、
アイリス、ローズ、ゼラニウム
ベース:サンダルウッド、オークモス、ベチバー、
アンバー、ムスク、シダー


スプレーしたてのフラカは、その濃厚でフェミニンなイメージに相反して意外にもフレッシュで爽やか。
ピーチとマンダリンの朗らかなフルーティーを、ヒヤシンスの冷たい青みが引き締めています。スプレーした部分に鼻を近づけると、ベルガモットの皮の渋い酸味がじんわりと潜んでいるのがわかりますし、青い葉を歯で噛み潰したときや、熟していないトマトにかぶりついたときに感じるあの青くやや生臭いグリーン香がしっかりと香り全体に輪郭を与えているのもわかります。
そこへややツンとしたキラキラのオレンジブロッサムが、光で包み込むように香り全体をまとめ上げ、一体化させている印象です。

やがて、トップのピーチに呼応するように、フルーティーなオスマンサスが静かに顔を出していることに気付きます。そしてそのオスマンサスに引きずられるようにして、濃厚なホワイトフローラルがまったりと芳香を放ちはじめるミドルはまさにフラカの真骨頂。すべての花々が濃密に溶け合い、ひとつひとつを嗅ぎ分けることはわたしにはできません。ミルキーなチュベローズとガーデニア、そしてほんのりパウダリックで静かなアイリスをひときわ感じますが、こうして抜き出して構成要素を説明することに意味を感じられないほど、すべてがクリーミーに纏まっています。
トップから続くピーチとオスマンサスの酸味と、スズランのほんのり冷たい青みがこの香りから品を奪わず、まさに「堂々としたフェミニティ」を実体化させているようです。この素晴らしい香りが、肌の上で6時間以上続きます。オードパルファムでこの香り持ち、素晴らしいです。

やがてこの香りが華々しさを潜める頃、「香りと肌が一体化している」と思えるときがやってきます。わたしの肌はフラカを吸い込み、フラカの香りを発するようになったのか。そう思えてしまうほどに、ラストのフラカは驚くほどしっとりと湿度を増し、肌や肉にマッチする。おそらくムスクやアンバーが、肌に溶け込むように香りをつなぎとめてくれているのでしょう。
ミドルまでは、舞台の上でスポットライトを浴びて輝く美しい女優さんを座席から見ている感覚だった。それが今、ふと隣を見やると彼女がそばで眠っていることに気が付く…、まさにそんな印象です。舞台を降りた彼女は思っていた以上にやわらかで無防備な空気を発していて、女のわたしですらその色香にドキドキしてしまう。
この香りを調香したのが女性だと知ったとき、妙に納得したのを覚えています。「フラカ」という人格の女性が脳裏にはっきり浮かぶほど、リアルな存在感を放つ香り。「わたしがフラカを纏っているのではなく、フラカがわたしの肉体を借りてこの世に具現化しているのだ」とさえ思います。

フラカの調香師はジェルメール・セリエ氏。最も初期に活躍しはじめた女性調香師ではないでしょうか。早期のバルマンでの活躍は有名です。ストレートなものいいで、妥協を嫌う女性だったそうです。とても先進的な方だったのだろう、と憧れます。
わたしが今回レビューしている復刻版は、このジェルメール・セリエの調香をオーレリアン・ギシャールが再現したもの。オリジナルへの敬意が見て取れる、完成度の高い再現だと評判です。いつかオリジナルのフラカを入手したら、両者を比較してみたいなと思っています。

フラカが似合う季節と場所


わたしの脳裏にイメージされるフラカは、華やかな社交界に生きる強く美しい女性。自分の美しさを知っていて、それが社交界で生き抜く上で武器になることも知っている。だからこそ、裏で美しさを維持する努力は怠らない。そんな女性です。

今の日本に、フラカがその真骨頂を発揮して生き生きと楽しめる場所はあまりないと思います。特に、ごくごく普通の一般市民のわたしの生活圏の中では。
なので彼女には申し訳ないですが、もっぱら自宅で自分だけのために香らせることにしています。
もっと若い頃だったら、向こう見ずにこの香りをデートにつけて行ったりしたかもしれません。いつか、「わたし自身がフラカを身に纏っているのよ」と思えるときが来たら、もっといろいろな場所へフラカとお出かけしたいと思います。

フラカの香りの持続時間


わたしが持っているのはオードパルファン。香り持ちはパルファン並み、7~8時間は優に香り続けます。
香りは濃く、強め。1プッシュで十分すぎるほど香り立ってくれます。
また、優れた芳香性ゆえに拡散しやすい香水です。特にトップからミドルにかけては香りが広範囲に広がります。

ラストにかけては、上で述べたようにひたすら柔らかく、肌そのものが匂いたつように優しく香ります。

こんな人にオススメ
 
・濃厚なチュベローズフレグランスをお探しの方
・肉感的でセンシュアルな香りに惹かれる方

わたしが紹介するまでもない名香ですが、思い入れの強い香りなのでレビューを残します。
今のこのご時世、むせ返るように女っぽいフラカの香りはトゥーマッチなのかもしれないと思いつつ、その確固たる個性と存在感に憧れます。
いつまでも大好きな、特別な香りです。

created by Rinker
ロベールピゲ
¥18,987 (2020/04/05 01:48:08時点 Amazon調べ-詳細)