bandit / バンディ【香水レビュー】

1944年、ロベールピゲから発売された名香バンディ。
本稿では、2006年調香師オーレリアン・ギシャールの手によって復活を遂げた、復刻版「バンディ」の香りを紹介致します。
 

☆☆☆☆☆ ビターシプレ
はじめに注意をすこし。私は何本もオリジナルのバンディをもっているが、これとは別物だ。でもどうか続きを読んでいただきたい。ジェルメール・セリエの傑作を現代的に再生するのはむずかしく、またやさしい。なぜやさしいかといえば、彼女の香水はユニークで大胆な香水だ。最新のバージョンのように、オリジナルを細かく分析しても安っぽさは免れないが、それでももとの「悪党(バンディ)」であることはわかる。さてむずかしいところだが、セリエは香水にベースを使うのを好んだ。ベースというのは下ごしらえした調合で、あらかじめこれを作っておけば、いちいち土台を作る手間を省くことができる。(中略) セリエの場合、問題はそのベースが半分ほど失われてしまったことだ。だからもし処方を手に入れたとしても作るのはむずかしい。彼女の香水を現代的に再現するのは、オリジナルの処方を、今日手に入る材料で実際の香りから翻訳する作業にほかならない。それは価値のあることだ。こういう香水の常として、むきだしのベースを隠すために余分なものがたくさん入っている。それをすっきりさせ、感じよく整理することは可能だ。ビンテージものの航空機のように、元からあるのは製造番号を刻んだプレートくらいで、後は構造部材から鋲にいたるまですべて寄せ集めというような考え方にも慣れた方がいい。1947年 (※) のオリジナルに比べるとこのバージョンは、復元された航空機、ベルX-1 スーパーソニックのようだ。つやつやとみごとに仕上げられているが、ほんの少し清潔すぎる。(中略) しかしこの香水の魅力はすべて残っている。苦くダークだが新鮮で、少しも優しさがないのに惹きつけられる。(後略)
※Fregranticaによると「バンディ」のオリジナルのローンチは1944年とのこと。
「『匂いの帝王』が五つ星で評価する 世界香水ガイドⅡ」(ルカ・トゥリン / タニア・サンチェス:著) より引用

私的偏愛度:☆☆☆☆☆
私的オススメ度:☆☆☆★★
 
日本から撤退してしまって久しいですが、未だにピゲは心から大好きなクチュールメゾンです。その思いは以前レビューを書いた「フラカ」の記事でも表明できたのではと考えていますし、本稿でもその気持ちを余すところなく表現できればと思っています。
「バンディ」ー「悪党」。ピゲの名香といえば「フラカ」か、これを挙げる方がほとんどではないでしょうか。
オーレリアン・ギシャールが復刻させたクラシカルラインの作品はほぼ揃えていますが、中でもやはり出番が多いのがこの2本です。残念ながらオリジナルの香りは試したことがないためルカ・トゥリンのように比較はできませんが、確かに冒頭から非常にクリーンで凛としたレザーシプレ調の香りです。
もともとわたしは、シプレの香りが好きなのです。クリーミーなラクトンを重ねた「ミツコ」の翳りも、ふくよかな華やぎをもつ「ノウイング」の眩しさも、春の呼び声のような「トロワ」の軽やかさも、そして初代「ミス・ディオール」のどっしりとしたあの趣も。「バンディ」のそれは、悪党と呼ぶにはあまりにも凛々しく美しく、わたしにとってはいわば「風の谷のナウシカ」のような、使命に向かって力強くつき進む行動力と、ある種の儚い美をあわせもったカリスマティックな女性を連想させる香りです。ルカ・トゥリンは「少しも優しさがない」と記していますが、わたしはそうは思いません。その信念の強さを瞳に溶かした射貫くような眼差しの中に、優しさが滲んでいるのがはっきりと読み取れます。常々「ナウシカ」のような人間に憧れているわたしにとっては師範とも呼べる香りであり、何かに迷う時にはこの香水を手に取ります。纏うといつの間にか自身の軸へと立ち返ることができ、迷いが正されていくような気さえしてくるのです。わたしの人生には欠かせない香りですが、リフォーミュラされているとはいえクラシカルな香り立ち、好みは分かれるであろうと感じてオススメ度は☆3としました。「シプレ」調の香りがお好きな方に対しては、自信を持ってオススメ致します。

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バンディの香りの構成と特徴


貫くような春風の香りにはじまり、鮮やかなフローラルノートが油絵具のようにこってりとしたタッチで描かれます。

香りの構成は下記の通り (Fragranticaの記載を参照しています)。

 トップ:アルデハイド、オレンジ、アルテミシア、
ガーデニア、ガルバナム、ネロリ、
イランイラン、ベルガモット 
ミドル:カーネーション、バイオレットルート、
ジャスミン、ローズ、チュベローズ
べース:レザー、アンバー、パチョリ、
オークモス、シベット、ココナッツ、
ムスク、ベチバー、ミルラ
 

澄んだ、そしてスッキリとした苦みから幕開ける「バンディ」。
アルテミシア、ニガヨモギの香ばしくみずみずしい苦みにはじまり、ベルガモットの皮を思わせるほんのりと酸味の効いたほろ苦さが重なり、そしてそれらを和らげるように生き生きとしたオレンジの輝きが香りを彩ります。奥の方に、桃に似たフルーティーな芳香をも感じるのですが、それはローズとベースのココナッツが合わさって生まれた桃色の香りであったのかもしれません。みずみずしさを薄曇りの被膜で包むかのようなアルデハイド、そしてその被膜内を鬱蒼と満たす深緑のガルバナム。香りがシャープに偏りすぎないよう、クリーミーなまろみを与えているのは白い花びら。
冒頭の透明感とミドルに進むにつれたこっくりとしたまろやかさ、そして鮮やかなオレンジと深いグリーンとの対比が美しく、まるで絵画を鑑賞しているような気持ちになります。
こっくりとしたグリーンノートの余韻を残したまま、華やかなフローラルブーケが香り立つミドル。わたしの鼻が強く感じ取るのは、力強いジャスミンと繊細で甘酸っぱい薔薇の花びら、そしてどっしりとした重みのあるチュベローズ。カーネーションはピリリとシャープな切れ味を添えています。ベースの香料もほぼ同じタイミングで顔を出し、香りに陰影を加えます。ビターなレザーにミルキーなココナッツ、ほのかにツンとしてアニマリックなシベットやアンバー。その香りはさながら、油絵具で描かれた花畑のよう。何層にも重ねられた色味が奥行きを生み、深くこっくりとした世界が展開していきます。
この香りに「ナウシカ」を連想してしまう明確な理由はわかりません。ただ、冒頭重ねられた緑とオレンジ色の大地を貫くようなアルテミシアの苦みに、樹海の上空を切り裂くように飛んでいくメーヴェと、その上で前方を見据える凛々しい彼女の横顔が目に浮かぶように感じたのです。

復刻版「バンディ」を調香したのは、オーレリアン・ギシャール氏。以前紹介した「フラカ」はもちろん、イッセイミヤケの「ロー」シリーズ新作や、資生堂の「エバーブルーム」など数多くのブランドにて活躍する調香師です。自身のオリジナルメゾンも立ち上げていらっしゃいますが、わたしはまだ作品を試したことはありません。

バンディがにあう季節と場所


わたしにとっての「バンディ」は春の香り。
肌寒い季節に纏うとあまり得意ではないレザーが全面に出てきてしまうからというのもありますし、序盤のオレンジとガルバナムのフレッシュなコンビネーションがわたしに春風を思わせるからでもあります。かっちりとした品のある香りなのでオフィシャルなシーンにはもちろん、オフのリラックスタイムにもよく用いる香水です。深いグリーンの香りを嗅ぐと、心癒され知らずのうちに落ち着くのでしょう。

バンディの香りの持続時間


復刻版についていえばオードパルファンのみの展開です。香り持ちは申し分なく、丸一日付け直しを要することなく香りを愉しむことができます。
この香りについては点で濃密に、というよりは面で広く軽やかに香らせたくなります。ボトルのスプレー部分が優秀で、細かい霧状で香りを纏うことができるため、その望みは簡単に叶いますね。肌から距離を取って、ふんわりとのせるように気をつけています。

こんな人にオススメ
 
・凛として優しいグリーンフローラルシプレ調の香りがお好きな方
・現代にも通用するモダンクラシカルなシプレ調の香りをお探しの方

「現代にも通用する」クラシカルなエッセンスが詰め込まれた香水をお探しの方には、このピゲの復刻ラインは非常にオススメです。中でも世界的な名香と謳われる「フラカ」、そしてこの「バンディ」は、香水がお好きな方であれば一度は試しておきたい歴史を飾るすばらしい香りです。その名声を抜きにしても個人的に思い入れの強い特別なフレグランス。これからも大切に使い続けたい1本です。

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