調香師・村井千尋さんに伺う R fragrance の魅力【香水レビュー】

お久しぶりです。
まだまだ楽観を許さない状況が続いていますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
皆様ご自身、そして周囲の大切な方々が心身健やかに暮らせておりますよう、陰ながら祈っています。

さて本記事から数回に渡って、R fragrance の創立者であり調香師でもあられる村井千尋さんへ伺いました、ブランドや商品の魅力やこだわりをあますところなくお送りいたします。
RIN・RICH・RAREをキーに掲げ、日本の豊かさを香りで表現する「国産ブランド」であることにこだわっている R fragrance。身近にも愛用している方が多く、まさに私たちの心身に自然に寄り添ってくれる香り揃いであると感じます。
本来は対面でお話を伺わせていただく予定でしたが、世情を鑑みてオンラインでビデオ通話をさせていただきながらのインタビューとなりました。お忙しい中貴重なお時間を割いてくださった村井さんに、改めてこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。
下記はわたしから村井さんに伺わせていただいた質問と、それに対するお答えのやり取りです。楽しんでいただけますと幸いです。

Q1. R fragrance 3周年おめでとうございます。ブランドの歴史を簡単に教えてください。
 
村井さん:
ありがとうございます。
R fragranceは2017年3月に、「ティーブレイク」「ブラックウード」、そして「ノーブルオーキッド」の三つの香りでスタートしました。
その後、2018年に「オパールシルク」と「辻ヶ花」、2019年に「ジャスミンジャスミン」と新作の「モーニングスランバー」を発売しました。
大体1年に2作品ほどのペースで新しい香りを発表しています。
日本ならではの豊かな精神性や癒しを本物の香りの中に表現することを大切に、香り創りに取り組んでいます。
 
Q2. 村井さまが香りの世界に入り、ご自身のブランドを立ち上げたいと思ったきっかけを教えてください
 
村井さん:
中学生の頃、ブランドものに敏感でオシャレな友達が多かったんです。
わたし自身もかわいいブランドものに興味があったんですが、中学生のお小遣いではなかなか手の届かないものが多くて。
そんな時、たまたま読んでいた雑誌の一ページに、
洋服が買えなきゃ香りで大人」というフレーズが載っているのを見つけたんです。
もともと香水は好きだったんですが、そのフレーズを見て衝撃を受けました。
たったワンプッシュで、自分の心持ちも、周囲に与える印象さえも変えてしまう力が香水にはあるんだと…。
香水をますます好きになるきっかけだったと思います。その後、本当にたくさんの香水を収集しました。いろいろな香りを試すことで、「香りの経験値」とでもいうべくものが少しずつ成長して行ったと思います。
そして、好きが高じて調香の学校へ入学し、企業で調香師として働くことになりました。

自分の会社を設立したいと思うようになったのは、「日本人をもっともっと魅力的に魅せることのできる香水を創りたい」と感じたからでした。
当時、市場で売られている香水は海外からの輸入品がほとんどでした。
海外旅行へ行った際、「いい香り!」と思って買って帰ってきた香水を改めて日本でつけると、「あれ、こんな香りだったっけ?」と感じることって多いと思います。
日本は欧州を比べて湿度が高いですし、特に梅雨時などは外国にいる時と同じ感覚でつけてしまうと思わぬ香り方をしてしまうことがありますよね。
日本人と海外の方とでは肌質も違いますし、香りに対する感覚も異なる。
日本人が付け方を意識せずに気楽に使えて、かつより魅力的に見えるような香水を創りたいと思ったんです。
 
Q3. ご自身のブランドを立ち上げる上で大変だったことはありましたでしょうか。
 
村井さん:
香りについての正確な知識と文化の普及に取り組むというのが、わたしが生涯をかけてやり遂げたいことです。
自分のやりたいことをやりたいようにやれているので、苦労を感じたことは特にありませんでした。もちろん、目の前のことをこなす上で大変なことはありましたけれど、「大変」という意識はなかったです。
ただあえて挙げるのであれば、まわりの人の固定観念を崩すことに苦戦したことはありました。ブランドを立ち上げる際に、「日本人が調香師なんておこがましい」「日本産の香水なんて売れないからやめた方がいい」といった声はたくさんいただきました。
その方たちの仰ることはわかります。香水はもともとヨーロッパを中心に生まれたものですから。ですが、日本にも室町の頃から香道の文化がありますし、平安時代には焚き染めが日常的におこなわれていました。
欧州には欧州の、そして日本には日本の良さがあるとわたしは思います。ところ違えば法律も変わるし、人々の常識も変わる。そういった、環境や条件で左右されるもので自分の可能性や活動の幅を狭めてしまうことはしたくないと思っているんです。

日本に香水がはじめて入ってきたのは明治時代と言われています。
日本は香水が売れない、そしてすぐ撤退してしまう「香水砂漠」なんてよく言われますが、そんな状況の中、「日本に香水文化を定着させよう」として今に繋いできた人たちがいる。そんな方たちのおかげで現在の市場があるのだと思います。わたしもそのひとりとして、バトンを受け継いでいきたいと思っているんです。始めた当初批判していた方々も、今では応援してくださっています。
 
Q4. ブランドへのこだわりや、R fagranceだからこそ生み出せる魅力をぜひ教えてください。
 
村井さん:
端的に言うと、上で述べた「日本人をより魅力的に魅せる香り」というのが R fragranceの良さであると思います。
用いている香料自体は世界共通のものなのに、なぜ日本らしい香りが創れるのだろうと思われるかもしれません。
その答えは、やはり日本人としての肌感覚にあるのだと思います。
先日、ヨーロッパに住む友人がディルの入ったお塩を送ってくれたんですが、それを使ってお料理をした翌日もまだ、その香りが強く残っていたんです。ディルって、日本の食卓で日常的に使われる食材ではないと思います。自分にとって嗅ぎ慣れない香りだからこそ、その香りばかり無意識に嗅ぎ取ってしまっていたんです。
食生活ひとつとっても、海外と日本とでは食材の選び方や組み合わせ方がまるで違います。
また、以前海外旅行から帰国した際、飛行機から降りた瞬間肩に重みを感じたんです。日本の空気の重さを肌で感じ、びっくりしたのを覚えています。
なぜか、海外にいるときと日本にいるときとでは自分の思考回路も変わってきます。
わたしが日本で暮らすことにこだわっているのは、そのためです。食事、気候、文化、そういった普段特別意識しない毎日の積み重ねの中で、「日本人らしい」感覚が養われ、そしてそれが香り創りにも表れているのだと思うんです。
もしも海外に生活の拠点を置いて過ごしていたら、食事にディルを入れることを普通と感じるようになってしまうかもしれません。毎日のことだからこそ、こだわりたいと思っています。

さて、R fragranceならではのこだわりや魅力ですが、大きく分けて5つポイントがあると思います。
1つ目は、クリエイティブな仕事によって創られた商品力です。
私たちが香水を創るときには、香りはもちろんですが、パッケージやラベル・ボトルのデザイン、ストーリーなど、
細部にまでR fragranceなりのこだわりを持ちたいと考えています。
創作からお客様のお手元に届くまで、信頼できる各部門のプロフェッショナルたちによって構成されています。

2つ目は、香りを原料から操ることのできる調香師が立ち上げたブランドであることです。
香りのコンセプトは私自身が創作しています。
コンセプトを実際に使用する原料に置き換えることができるのは、原料や調香技術などの香りの専門教育を受けた調香師だからだと思います。
同じテーマであっても、表現の仕方は人によって様々です。
頭の中で思い描いた香りにするためにはどの香料を使えば良いのかを考えられることは強みだと感じています。

3つ目は、日本在住の日本人調香師だからこそ提供できる感覚と香りの魅力です。
先ほどのお話と重なりますが、日本在住の日本人が調香師だというところが重要だと考えています。
日本人らしい感覚を維持できるというのはもちろんのこと、「どこで作られた香り」なのかってとても大切だと思います。

4つ目は日本人や日本の風土や文化に親和性の高い、日本製の香りであることです。
欧州と日本では気候も肌質も、そして国民性も異なります。
特に日本では「和を乱さない」ことを重要視する文化ですから、つけ方で失敗することのないよう、
また、つけ方で悩まなくていいように、個性的でありながらつんとしない香り立ちにこだわっています。

最後の一点は、哲学的なメッセージや人としての在り方を香りに込めているところだと思います。
わたしは常々「枠」にとらわれずにニュートラルでありたいと思っています。
上とか下とか、いい悪いなんて絶対的なものは存在しないと思うんです。
だからこそ、香りを使って下さった方のご感想を聞くのがいつもとても楽しみなんですよ。
 
Q5. 香りを生み出す際のインスピレーションはどこから得ているのでしょうか。
 
村井さん:
インスピレーションの源になるものはたくさんあって、例えば日常のワンシーンであったり、感動であったり胸の高鳴りであったり、もしくはすばらしい香料との出会いであったりします。
ある日突然何かが降ってくるというよりは、日々の生活の中で感情の欠片のようなものを少しずつ拾い集めて、それが形になるのを待つといったイメージなんです。だからこそ、日ごろから絶えずセンサーを働かせておくように意識しています。
 
Q5. 思い出に残っている香水や、特別な香水というのはありますでしょうか。
 
村井さん:
これはよく聞かれるんですが、これといったものはないんです。
でもやはり、自身の思い出や記憶に結びついている香りというのは特別かなと思います。昔好きだった人が使っていた香水を今でも覚えていたりします。あとは、調香師として「この香り興味深いな」と感じるものはたくさんありますね。
 
Q6. 新しい香りを生み出すというと難しく感じるのですが、どのように香りのレシピを決めていらっしゃるのでしょうか。
 

村井さん:
特に決まった方法があるというわけではないのですが、基本的には「頭の中にある香りを再現するために試行錯誤」するという作業を繰り返しています。あとで詳しくお話しますが、「辻が花」などはまさにそのようにして調香しました。
「ジャスミンジャスミン」のように、ある香料に惚れ込んで、その良さを引き立たせるというのをテーマに香りを完成させることもあります。
また、新作の「モーニングスランバー」の場合は、秋口、9月頃でしょうかー の朝、カーテンの隙間から陽射しが差し込むまどろみの時間をイメージして創った香りです。近くで寝ているパートナーの体温が
太陽光に照らされて徐々に高くなり、じんわりと汗ばむようなあたたかさの中で、夢と現実の間を行ったり来たりしているような…。
通常縁の下の力持ちとして使われるアルデヒドを肌の匂いに見立てて主役に用い、甘さのない男性的なソーラーアンバームスクを加えました。
わたしは「完璧すぎないもの」、「少し欠けているもの」に惹かれるので、最後に「これで完璧!」と思ったものから引き算をして完成品としています。

終わりに
 

今回お話させていただいて、村井さんご自身のまさしく「凛」として美しい佇まいに感銘を受けました。
非常にお綺麗な方であるのはもちろんのこと、内面にしっかりとした一本軸をお持ちであられるところがとても格好よく、人として見習いたいと感じました。
そんな村井さんのお人柄が少しでも伝わっていれば嬉しく思います。

次回以降は、ひとつひとつの香りにフォーカスをして、その香りのうまれた背景や込められたこだわりについて紐解いて参ります。
ぜひお楽しみに。

R fragranceの公式HPはこちらから。
https://www.rfragrance.co.jp/