【R fragrance】調香師・村井千尋さんに伺う「BLACK OUD」の魅力【香水レビュー】

調香師でありブランドのオーナーでもあられる村井千尋さんに伺う R fragranceの魅力。
前回に引き続き今回は、2017年に発売された「BLACK OUD」(ブラックウード) の香りについてご紹介して参ります。お楽しみいただけたら幸いです。

調香師・村井千尋さんに伺う R fragrance の魅力【香水レビュー】

2020-06-28

BLACK OUD のなりたち
 
村井さん:
「『BLACK OUD』は、禅宗の枯山水 (水を使わずに、石と砂利と苔のみで自然の風景を表現する『詫び寂び』の様式) の石庭にインスピレーションを得てうまれました。無駄をそぎ落とした簡素な中に魂の宿るさまに魅了されたんです。
枯山水というと、京都府にある龍安寺が有名です。お気に入りのスポットで、これまで何度も足を運びました。
茶室に面した庭には大小さまざまな石が15個配置されているのですが、どの角度から眺めても必ずひとつどこかの石が隠れて見えないようになっています。
庭を眺めていると、『何もないのに、すべてがある』のだという気持ちを覚えます。
茶室の蹲踞 (つくばい) には、『我ただ足るを知る』というメッセージが刻まれているのは有名です。ないものを嘆くよりも、今あるものに感謝して生きようというその言葉に、大きな共感を覚えました。
時には自分にないものを貪欲に求める姿勢も大切だと思います。けれど、ないものばかりを求めると、手に入らなかったときに『不満』の気持ちが芽生えてしまう。そうではなく、今自身が手にしているものにありがたみを感じて生きるその心持を、大切にしたいと思いました。
 
日本には茶道や華道、書道、そして香道など、『道』のつく芸道がたくさんありますが、それらはすべて茶室の中でおこなわれます。
茶室というのはときの将軍も足を運ぶ非常に重要な場所でした。茶人は茶に毒を盛っていないことを暗に示すために、膝の上で手を隠さないようにしていたといいます。文化芸道が育まれた場所であると同時に、緊迫した空間の中で己を失わないよう静かで強い心が必要とされた場でもあったと思うんです。
『BLACK OUD』にも、そんな茶室にちなんだ香りが加えられています。香道には欠かすことのできない沈香や、茶花をイメージした花の香り、そして掛け軸の書の墨の香りを合わせ、静寂と、凛とした力強さを表現しました。」
 
村井さんのご説明を伺いながら、BLACK OUDをはじめて香ったときに感じた心が凪ぐような静寂と落ち着きを思い出していました。
龍安寺は、京都で暮らしていた学生時代よく訪れた大好きなスポットのひとつです。石庭に面し、心を無にして静かさに耳を傾けると、真に豊かなものが体の内を満たしてくれるかのような感覚を覚えたものでした。
「BLACK OUD」を纏うと心身が澄んでゆくような癒しを感じると同時に、目の前のことにまっすぐに集中できるような心持がしてきます。
自分自身の「道」を往く、その歩みを応援してくれるかのような香りであると思っています。
 
BLACK OUD の香りとは
 
こちらの項目では、不遜ながらいち消費者として私が感じる「BLACK OUD」の香りについて、言葉にしてみたいと思います。

肌にのせた直後私が感じるのは、お砂糖を溶かしたレモンティーを思わせるスッキリと甘い香りの中に、仄かに燻る木のあたたかみ。
作品の中にティーノートは使用されていないそうなのですが、トップノートに加えられているというベルガモットがそのような印象を与えてくれたようです。
「ウード」と聞くと煙くてアニマリック、上級者向けの香りを連想される方もいらっしゃるかもしれませんが、「BLACK OUD」の香りはよい意味でとても柔らかく、まとわりつくようなしつこさは一切ありません。
やがて奥の方にじんわりと、抹茶を思わせる心地のよい渋みが滲むように香ることに気がつきます。
穏やかで、かつ広がりのある豊かな香り立ちでありつつも、深みのある木の香りが一本芯を通すように凛とした存在感を放っています。
そんな力強さのある中盤とは裏腹に、香りの終わりはとても繊細で柔らかく、霞がかった甘さが肌の上に残るのもまた印象的です。
「BLACK OUD」に限らずR fragranceの香り全般に言えることかもしれませんが、季節やシーンを問わずニュートラルに楽しめる普遍的な香りであることがとても素敵だと感じました。「普遍的」とはいっても「よくある」香りという訳では決してなく、他にはない個性が輝いているのにどこか懐かしい。
村井さんが前回の記事で仰っていた、「日本人としての肌感覚」が込められているがゆえの独自の魅力なのだろうと感銘を受けました。

目を閉じてこの香りの中にどっぷりと心身浸っていると、微かな香の残る和室で瞑想をしているかのような深く果てのない癒しを得ることができるように思います。と同時に、自分の中の軸を再度見つけ出し、目標に向けて一歩踏み出す勇気を貰える香りでもあると感じています。
前向きに頑張りたいことがあるとき、この香りを纏うとやる気が湧いてきます。
また、悩みにぶち当たり、考えすぎてしまって頭の中に雑念が立ち込めてしまったときにも、この香りを無意識に手に取ることが多かったように思います。自分にとって大切な「軸」や「芯」を思い出させてくれる力が、この「BLACK OUD」にはあるように思うのです。
 
BLACK OUDのパッケージに込められたこだわり
 
村井さん:
「R fragranceでは、香りそのものだけではなく、ボトルやパッケージなど細部に至るまで、工夫を凝らしています。
実は香りごとに、ボトルのラベルや箱にプリントされた模様が異なっているんです。
『BLACK OUD』の場合は、和の模様である青海波模様を応用し、そこに直線を組み合わせて石庭を表現しています。」
香りごとにラベルや箱のプリントが異なることには気がついていたものの、それらのデザインに至るまでこだわり抜かれていることを、恥ずかしながら伺うまで知りませんでした。
お話を伺い、改めてパッケージをよく見てみると、確かに石庭が目に浮かんできます。香りに込められた物語を視覚的にも楽しむことのできる、素晴らしい心遣いであると感動しました。
 
BLACK OUDのおすすめの纏い方
 
村井さん:
「まず、一般的かつ基本的な付け方として、肘の関節から手首側に10cmほど離れた部分に1-2プッシュしていただくのをおすすめしています。
関節の内側は汗をかきやすい部位なので避けて、手首との間ですね。長袖の衣類を着ているとちょうどよい香り方をしてくれます。
スプレーする際は15~20cmほど離して、霧状の香りをふわりと纏うのがコツ。擦らずに自然乾燥させるのも重要です。
気温が高いときや、半袖の服を着る際には、ウエストの両端に1プッシュずつスプレーするのがおすすめです。
また、これは私がお気に入りの纏い方なのですが、肩甲骨の間に1-2プッシュするというのもおすすめ。すれ違う際とても効果的に香ってくれるんです。肩甲骨の周辺には褐色脂肪細胞という脂肪を燃焼してくれる細胞が密集していて他より体温が高めなので、綺麗に香りが拡散してくれるんですね。真夏など汗をかきやすい時期は避けていますが、それ以外の時期にはぜひ試して見てください。纏う量は全身で2-3プッシュになるように調整していただくと良いと思います。

さて、『BLACK OUD』の場合ですが、私は上で紹介した背中と、くるぶしの両端にスプレーすることが多いです。
『BLACK OUD』はR fragranceの中では比較的強い香りなので、それで強すぎると感じる場合はくるぶしの両端のみでも綺麗に香ってくれますよ。」
 
終わりに


前回の記事に引き続き、今回は「BLACK OUD」の香りの魅力について詳しくお話を伺いました。
心を鎮め、自分らしさを引き出してくれる唯一無二の香り。楽しんでいただければ幸いです。
次回は「TEA BREAK」の香りを紹介して参りたいと思います。どうぞお楽しみに。